全日本筑波の参戦を断念したその練習からの帰りの車の中で隣に座っている嫁さんに心中を打ち明けました。 「もう本当にライダーとしての限界を感じた。今日この日をもってレース辞めようと思う。普通の生活に戻ろう。いつかはレースを辞める日がくるわけで、それがたまたま今日だっただけの話。目標は果たせなかったけど、今辞めれば五体満足でバイクから降りることができる。ずいぶんと金も使ったし、悔しい思いばかりしてきた10年間だったけど、去年一度全日本出場という夢もかなえてるし、そんなに悪いレース人生じゃなかったようにも思える。」 それを聞いている彼女は、何かを言いたそうにしてるけど、言いたいことが言葉にならないという感じで、ただただ前を向いています。 日ごろから「レースは今年まで!」と釘を刺しててきた彼女ではあるが、シーズン始まったばかりのこの5月に唐突にやってきた引退宣言に戸惑いを感じているかのようです。 嫁:「でも、もう一回全日本を走ってる姿を観て見たかった気もする・・・」 僕:「・・・・・・・・」 この時は自分にまだ走る力が残っているようには思うことはできませんでした。 ただ心残りなことがあるとすれば、自分にとってのホームコースであるSUGOを走らずに終わってしまうのもどうかなあ・・・という気持ちが無いわけでもないということです。 というかもっと正確に言うとすれば (これでSUGOを走ってみてやっぱりダメだったら、完全に辞める決心がつくだろうなあ・・・) という感じでしょうか。 一晩考えて出した結論は、この2週間後に行われるSUGOのエリア選手権に緊急エントリーすることでした。 <SUGO エリア選手権 公式練習> これまでのSUGOの自己ベストは1分36秒343、去年の全日本SUGOで出したタイムです。 昨年TZ250にマシンを変更して、練習でもひとがんばりすれば1分36秒台をマークできるようになっていたので、今年の最低目標は1分35秒台、できれば34秒台の後半には入れたいといったところ、間違って33秒台でも出ようものなら大ブレークです。 ただ今回のエントリーの趣旨は、自分自身がライダーとして本当に終わってしまっているのか、いないのか・・・それを見極めるためのようなところもあるので、まずは走ってみないことには、どんなタイムが出るのか予想もつきません。 そんなこんなで昨年9月以来8ヶ月ぶりで走ったSUGOの公式練習では1分38秒台でぐるぐると回って、何発か37秒台の後半に入るレベル。 去年は、同じくらいのテンションで走ってコンスタントに37秒台前半をマークしていたことを考えても、やはり調子はよくありません。 (やっぱりSUGOに来てよかった。本当に自分がダメになってしまっているのが良くわかった・・・。これで完全にレースを諦められる) そんな思いが頭の中の半分を占めています。 そのもう半分の頭では、諦め悪くも、「何がいけないのか?どうしてせめて去年と同じように走れないのか?」答えを探そうとしている自分がいます。 明日に予選・決勝を控えた土曜の晩の風呂の中で、落ち着いてもう一度、去年の最も良い状態の時の自分の走りをイメージして、今のダメな走りとの違いを比較してみました。 何度も何度も頭の中で良いイメージの走りと、今日のダメな走りとの違いのイメージを繰り返します。 今の悪いイメージと比較的良かった去年の良いイメージ。 まずは純粋に「何が違うのか?」を考えます。 なんとなくバイクとライダーの位置関係・・・言わばバランスが違うような気がします。 その次に「何で違うのか?」を考えます。 ともすればこの「何で?」は「ライダーが調子悪いから・・・」と結論づけてしまいそうになりますが、あえてその部分には目をつむり別の原因を探してみます。 するとこの原因に、ひとつだけ思い当たる節があったのです。 筑波の全日本前の練習でバイクのサスペンションセッティングを変更していった時期と、スランプに陥っていった時期は一致してます。 どうやらこのサスペンションセッティングに問題があるような気がしてきます。 頭の中でサスペンションのセッティングを変更前の状態にしてみます。 次にその変更によって起こるであろうバイクのサスペンションバランスをシュミレートします。 そして、今度はその頭の中でセッティングを変更したバイクに乗っている自分をイメージします。 (あれっ?いい感じだ!) あくまで頭の中のイメージでしかないのですが、そのイメージの中のバイクに乗ってみると、いい感じでコーナーを攻めることができます。 もっと言うと、そのイメージの中のバイクに乗っていると、逆にわざと悪いイメージをしようとしても、その悪いイメージが再現できない・・・っていうくらいなのです。 (これしかない!) レース活動存続か中止か・・・という瀬戸際で、最後の望みをかけるかすかな光明が差し込み始めました。 <予選・決勝> 早速昨日までのセッティングの方向性を一転して真逆に振ってみます。 この状態で様子を見ながら予選を走ると、案の定昨日頭の中で描いた「良いイメージ」が再現されています。 予選タイム自体は37秒台前半という平凡なものでしたが、フロントロー4番手グリッドを獲得し、決勝に向けて良いイメージへの感触はばっちりです。 決勝はいつものごとくスタートを失敗し、かなり後方からの追い上げになり、何周かかかって自分より予選タイムの悪いライダーたちをひととおり抜いたところで、36秒台にあっさり突入。 しかしながらその時点で、前を走る同僚小野英寿選手とはバックストレートで1本分近く離されています。 昨日練習でマシントラブルが発生し、今回あまり練習をしていない小野選手は本来35秒台で走る実力をもっているのですが、今朝の予選で38秒しかでていない。 (絶対追いつける!なんせこちらは36秒台前半で周回している。今回の小野君の調子なら絶対追いつけないことはない!) ところが、その小野君、簡単には近づいてきません。 (うっ、やっぱり小野君も36秒ペースで走ってるのか!?) ここで小野君が近づいてこなかったことで、精神的にガクッときたのかもしれない。 突然、アクセルとブレーキを操作している右手、クラッチを操作している左手に疲労を覚え始めます。 特に今回はクラッチを操作している左手の疲労が深刻です。 ホームストレートエンドとバックストレートエンドではそれぞれ4回づつのシフトダウンがあるのですが、その4回のシフトダウンに左手のクラッチ操作が間に合わなくなってきています。 ところが疲労でだんだん集中力が切れてくる中でもタイムは淡々と36秒台前半をマークし、昨年までの自己ベストを更新しています。 (35秒台に入れたい!) 悲願の35秒台目指して、途切れかけている集中力をかろうじてつなぎとめようと懸命に走るのですが、やはりコーナー進入時の左手の疲労がその集中力を奪おうとします。 (ここでがんばらなければ後悔する!) 最後に気力を振り絞った周回が1分36秒1。 この時点で集中力が途切れて残り2〜3周は現在のポジションを守る為の走りに切り替え5位でチェッカー。 それでも実に2001年以来2年ぶりの表彰台をゲットすることになりました。 目標としていた1分35秒台には入らなかったものの、後半疲労で集中力が切れ掛かっていたにもかかわらず36秒台前半をコンスタントにマークしたことは、昨日までの自分の精神的状況からすれば考えられない結果です。 「まだレースを辞めれない・・・」 そんな想いを確認することのできたレースでした。 帰りの車の中でまたまた嫁さんに聞いて見ました。 僕:「土曜の練習の時点でタイム出てなかった時、『やっぱりこのレースで終わりだな』って俺が思ってたの分かってた?」 嫁:「たぶん、そうなるだろうなあ・・・って思ってた。」 とにもかくにももうしばらく僕のレースは続きそうです。
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