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絶望・・・(2003年5月 全日本選手権筑波大会参戦中止)

今シーズンの2大目標である全日本選手権筑波大会。

前回のレースの後、約2ヶ月弱のインターバルで、そのための準備にとりかかります。

全日本筑波での目標タイムは59秒台。

59秒台を出せないと予選通過が厳しくなります。

筑波で59秒を出すと周囲の目はガラっと変わります。

「あいつは本当に速いライダーだ!」

と誰もが認めるようになるのが、この59秒というラップタイムなのです。

私の前回レースの自己ベストタイムが1分00秒617なので、あと0.6秒ちょっとで59秒ライダーの仲間入りです。

「たかが0.6秒、されど0.6秒」

この0.6秒との闘いが幕を開けます。


<3月26日 筑波練習>

前回レースで使用したタイヤを使って筑波で練習です。

新品タイヤではないので、とりあえず1分00秒中盤が出れば、本番での59秒台への手ごたえはばっちりです。

1本目の練習が終わったところで、ベストタイムは1分01秒2。

最終コーナーで僕の走りを見ていたチームメイトが

「最終コーナー、いい走りしてましたよ。自己ベスト出たんじゃないですか?」

などと褒めてくれるのでまんざらじゃない感じです。

2本目の練習で1分00秒8をマークして、そこそこ意気揚々とピットに戻ってくると、今度はホームストレートから1コーナーの進入を見ていた、先ほどのチームメイトや嫁さん、さらに友人のヘルパーまでもが口を揃えて

「1コーナー、しょっぼーい!」

さっき僕の最終コーナーを絶賛してくれたチームメイトまでもがほとんど呆れた口調で、今度は僕の1コーナー進入の走りを指摘するではありませんか。

自分:「えーっ、そんなひどい?」

(みんな口を揃えて):「いやあ、ひどいなんてもんじゃない!」

ものすごい言われようです。

でも僕はその辛口コメントに耳を傾けながら、今まで以上に59秒台への手ごたえを感じて、ほくそえまずにはいられないのでした。

(そんなしょぼい1コーナーの走りで、1分00秒台に入ってんのか・・・。ってことは、ここさえ攻略できれば59秒に間違いなく入るってことだ!)

言わば59秒台への具体的な課題が見えてきた。

あとは1コーナーさえ克服さえすれば、59秒台は向こうからやってくる!・・・くらいの楽観ムードが僕の中に漂い始めたのでした。


その後筑波サーキットには2回ほど練習に行きますが、タイヤの状態がかなり厳しいので練習テーマはずばり!

「流して走って1分00秒台」

という感じでいきます。

キンキンになって走って1分00秒台しか出すことのできない走り方では、その先には59秒台はありません。

もう少し具体的に言うと、タイヤの状態に依存せずに、コースのライン取りやエンジン・車体のセッティングを意識して、安全に走って1分00秒台を出せるようにしておこう・・・というイメージです。

結果的には、2〜3周ほど全開で走ると、遅いライダーに引っかかってペースダウンを繰り返すというあまりテンションの上がらない状況で、1分00秒台には入りませんが、確実に1分01秒前半のタイムはマークすることができるので、調子はまあまあといったところでしょうか。


さて4月も後半に入ってきて、いよいよ来月の本番に向けて本気モードの練習を始めます。

練習でも新品タイヤを投入し、実戦さながらでコースを攻め込む予定です。

この辺で目標の59秒台を出しておければ、精神的にゆとりともって全日本のレースウィークを迎えることができます。

逆に1分00秒前半あたりのタイムが出ていないと精神的には相当追い詰められます。

まあ、中古タイヤでそれほど攻めずに1分01秒前半をマークしていたことを考えると、新品タイヤを投入すれば1分00秒中盤は確実、そこからちょっとがんばって1分00秒前半はいけるでしょう・・・ってな感じでサーキットに入ります。

さらに今回から、待望のパーツを組み込んであります。

バイクのフロントフォークの特性を変更するため00年式のフロントダンパーを装着して、コーナリング中にしっかりサスペンションの奥のほうが使える仕様に変更してみました。

タイヤも新品、サスもニューパーツ・・・ということで意気込んで練習を開始しますが、思惑を外して1分01秒台の走行が続きます。

フロントサスペンションの仕様が変更になり、前後の車体バランスがくずれたためか、リアタイヤの接地感が希薄で、バイクをフルバンクさせようとするとリアタイヤが滑り出す感じがあります。

リアサスペンションのイニシャルを変更して、その症状は多少治まったのですがそれでもタイムが出てきません。

こないだまで気になっていた練習中の遅いライダーたちにもほとんど出くわすことなく、何ラップも連続して全開走行しているのですが、1分01秒台から抜け出すことができません。

最後のほうでなんとか1分00秒台にかするものの、59秒台突入が一気に遠のき、本番直前にして焦りがつのります。

その後、数回筑波に練習に行くのですが、焦れば焦るほどタイムは落ち込むばかりです。

この時点で僕の全日本筑波参戦に黄色信号が点灯し始めました。

(全日本前の最後の練習走行で1分00秒5。これを切れなかったら全日本参戦を断念しよう・・・)

そしてその最後の練習走行。

もちろんタイヤは新品。

走行チャンスは3回。

ここで1分00秒5を切れなかったら参戦断念です。

全日本の予選に挑むくらいの気持ちで、コースインします。

1本目・・・今できる渾身の走りをして1分01秒1がベストタイム。たった2〜3週間前には中古タイヤで流しながら走っても出すことのできたタイムをマークするのが精一杯。

2本目・・・さらに気合を入れてコースイン。特に遅いライダーに走行を邪魔されているわけでもない。ただひたすらコースを攻め続ける。時折自分よりわずかに速いライダーに抜かれ、そのライダーについていこうとするが、どうしても離されてしまう。万全の調子なら絶対についていけない相手ではないのに、どうしても離される。タイムも1分01秒中盤という、ここ最近で最も悪いペースまで落ち込んでいる。

3本目・・・もう後がない。エンジンのセッティングをさらに追い込んでコースインしたのが裏目に出て、コースイン直後にエンジンの状態が危険であることを知らせるデトネーションカウンターが狂ったようにカウントをはじめ、今まさにエンジンが危険な状態であることをライダーに警告しはじめた。セッティングを安全な状態に戻す為にピットインする。

このピットインでセッティング変更の作業を始めたところで、今まで張り詰めていたものが、プツッと切れました。

(1本目、2本目であれだけ攻め込んだにも関わらずタイムが出てこない。ライダーとしては全く余力がないところまでもう攻めた。もうライダーに力は残っていない。これで終わりにしよう・・・)

全日本選手権筑波の参戦中止はおろか、この後一切のレース活動にピリオドを打つことさえ頭をよぎる絶望感に打ちひしがれたのでした。

 

・・・NEXT・・・

 

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